はじめて聞いたその魚の名前は「モツゴ」

とつとつと,池のある近所の公園を歩いていると,冬を越した枯れた雑草のそこここの合間に,色づいた梅の木が今少し季節の変わり目に嬉しさを届けてくれる。寒さはまだまだ残る昼前の陽気は「もう春だね」って言葉を生んで,それは確かに冬だからこその喜びである。

小学生高学年くらいの男女2人とが網をもって水辺にひざ下までつかり,ちかくに置かれた3つの水槽にはわんさか捕まえた小さな稚魚がわらわらと泳いでいた。水槽近くに3歳くらいだろうか,小さな男の子が水槽を覗いている。

「これなーにー?」
男の子が大きな声で小学生にたずねるも,男子女子は気づいてか気づかないでか,反応なしにせこせこ水の中を網であさっている。
「これなーにー!」
二度目。
しばらくすると網を持ち上げた女子が男の子の近くまで歩いてきて,つかまえた魚を水槽に入れた。
「モツゴだよ」
男の子はしゃがんで水槽の中をじっと見つめている。
「なーにー?」
女子もしゃがんで魚を指さす。
「モツゴだよ,モ・ツ・ゴ」
ふたりはじっと,しげしげとそれを目で追っていた。