「なるほどですね」が使われる理由

なんか、たぶん間違った使い方なんだろうな。
ってことくらいほぼほぼ使っている人がわかっているんですよね、これ。

「なるほどですね」

これはもはや、ここまで浸透しているなら誤用ではなくて、そういう言葉として定着しつつあるんだよって。そういう誤用の定着ってたくさんあるので、これもその一つになるのかもしれないなって感じています。

「なるほどですね」って相槌として使いやすいんですね。

言い換えにはこういうのがあるよって話はそこかしこで聞きますが、どれも口をつくには語呂が悪いというか、かたっ苦しいというかで使いにくいですし。

・おっしゃる通りでございます
・なるほど、おっしゃる通りです
・その通りですね

意味的な視点でも使いにくさがある。
「なるほどですね」は単に理解したよって意思表示での相槌で、同意の意味合いが薄い時に使えるのですが、言い換えでよく上がる上記の3つなんかは、同意の意味合いが強い印象で、ちょっと気軽に使いにくいってのもあるかもしれません。

あと環境。

ちょっと上のチームリーダーが、部長に対して「なるほどですねー」って言うてたら、ペーペーの平社員が「なるほど」って言うたらなんだか偉そうに映るじゃないですか。

部長:「当プロジェクトは少数精鋭で進めて行くべきである」
リーダー:「なるほどですねー」
平社員:「○○○○」

こういう時、一定の理解は示すものの、完全に同意はしかねる場合、平社員は何ていいますか。

「なるほど」って言えますか。

完全に同意していなくて「おっしゃる通りですね」って言いにくい時。加えて所属する環境で多くの人が「なるほどですね」って使っている場合。そういう時「なるほどですね」がしっくり来てしまうんですよね。

わかっちゃいるけどやめられない「なるほどですね」ロジック。

堂々と使って行こうってまでは言うつもりありませんけども、たぶん、誤用に目くじら立てる人の方が、その辺の事情をよく汲めてない場合があるかもですよ。

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ちなみに…上述の例への一つの解としておまけ。

部長:「当プロジェクトは少数精鋭で進めて行くべきである」
平社員:「なるほど、少数精鋭ですね」

賛同かどうかまでは文意に含まないニュアンス。
「なるほど+かいつまみ+ですね」パターン。

「なるほど」それ自体が経緯に逸するという視点もあるので、注意は必要ですが。

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※誤用が定着しつつある例ではこの辺の「敷居が高い」の正用と誤用を論じている論稿なんかがわかりやすいので、ご参考に。

「敷居」は「敷居が高い(低い)」等の慣用句としての用法が増加してお
り、しかもその「本来の意味」である A「不義理・不面目」よりもむしろ B「上品で入りにくい」、C「とっつきにくい」の例の方が優勢となっていることがわかった。ー中略ー
用例数の動向を観察するだけでも、辞書や日本語本で「誤用」と指摘される用法がむしろ多数派の用法として定着しつつあることが見て取れる。

引用:2013年9月,国立国語研究所
https://www.ninjal.ac.jp/event/specialists/project-meeting/files/JCLWorkshop_no4_papers/JCLWorkshop_No4_01.pdf